緑内障4:白内障手術体験

手術の決意

緑内障シリーズですが、私が受けたのは白内障の手術なので、今回はその体験記です。

白内障は水晶体が濁る病気で、手術以外に治す方法はありません。では、どうなったら手術をするか。手術を行う時期は人それぞれで、細かい作業が必要な人もいれば、大雑把に世間を見ればよい人もいる。手術が大嫌いな人も、何とも思わない人もいて、要はやりたいときにやればよい。白内障だけならば手遅れになることはありません。

眼科医は視力や水晶体の濁り具合を見て、ある程度手術が適当と思われる時期を判断します。ただし、それは見え方のシミュレーションをしたり、これまで白内障になった方々の体験談を聞いているだけで、本当のところは眼科医自身にもわかっておりません。

一般的に白内障になると、多くは眩しさ、霞みなどを感じます。私の場合も1年ほど前から、天気のよい日は窓がいやに明るく見えたし、黒いはずの文字がグレーで見にくかった。
今から思えば普通の本よりも、電子書籍を好んで読んだ訳は、光る画面の方が見やすかったのかもしれない。それでも0.9~1.0の視力があったし、その気になれば何でも見えたので、手術は迷っておりました。
しかし、ある日クレジットカードを使った時のことです。暗証番号を押す端末は黒地に赤い色の数字が記されて、これが読めなかった。JRの駅でも黒地に赤の掲示板が見にくくて、この時決心をした。

手術が決まれば、次はどんな眼内レンズを選ぶかということです。
選択肢は単焦点レンズか多焦点レンズか。実はこんなに単純ではなく、焦点深度だとか3焦点とかいろいろあるのですが、ここではこの2つのレンズに絞ります。
単焦点とは近くか遠くか、どこかにピントを合わせるもので、術後はとてもはっきり見える。そのかわり、近くにピントを合わせれば、遠くを見る時にメガネがいるし、遠くにピントをあわせれば読書用のメガネが必要です。
一方、多焦点レンズはメガネなしで遠くも近くも見える半面、どちらも多少もやがかかったような見え方です。もう一つ、多焦点レンズは保険適応ではないので、数十万円の余分な費用がかかります。
要は快適な見え方をとるか、メガネのいらない便利さをとるかの選択です。値段が高い方がいいと思ったら間違いです。

私の場合は診療と読み書きが暮らしの大半を占めるので、近い距離にピントを合わせた単焦点レンズを選びました。
実際、多焦点レンズを使った手術をする眼科医は多いのですが、いざ自分が手術を受ける段になると、大半の眼科医は単焦点レンズを選んでいるのが現状です。

手術体験

手術はまず、数日前から抗菌剤の点眼で始まります。当日は瞳孔を開く点眼薬を数回使って、いざ手術室です。
手術台に上るとまず目の消毒。目を洗うのでびちゃびちゃと流れる水(消毒液)が冷たい。
手術をする片目だけに穴のあいた覆いを被せて、手術中に目が閉じないよう、器械で目を開けます。こうなると、もう瞬きはできない。
手術用顕微鏡が目の前に出てきて、もの凄く眩しいけど、目は閉じられない。顕微鏡の強い光源の形だと思うけど、台形の明かりが二つ見えていました。

下を見てとか、まっすぐ前とか言われるけど、もう自分ではどっちを向いているのかわかりません。「はじめまーす」という言葉とともに、ほんちょっとチクッとした痛みは多分麻酔。
目に触られている感触が数分続いて、これは角膜の端を切開してから、目の中に針をいれて作業をする過程ですが、私自身がさんざんオペレーターを務めてきたので何をされているか、よくわかります。何でもないことなのだけど、手をきつく握って緊張をしていました。
手術が進むにつれ、水晶体はその形を留めなくなるので、ランプの台形はぐちゃぐちゃの光になった。
ちりちり超音波の音が聞こえた後、しばらく静かになった。ここで白内障の手術は終わりです。この後眼内レンズが入ると、瞬時にランプのあの台形が現れました。
後は仕上がりをちょんちょんと整えておしまい。この間多分10分か15分くらい。

結果

翌日眼帯を取ると世界はすっかり変わっていました。
ベージュと思っていたビルは白かった。空は地中海のように青い。文字とはこんなにシャープな形だったか。鏡を見ると自分はこんなにじじいだったのか。
でも、気がつけばメガネも使わずにスマホを扱っていた。

実際に手術前後の見え方を示すことはできません。でも、反対に眼医者が外から白内障患者の眼底を見るという条件であれば、手術前後の変化を比べることができる。
ただし、「見る」ということは本来、網膜が水晶体を通して、外界を感じることです。その反対をしようと思っても、光学上あるいは眼底カメラの性能上、そこには少し無理がある。
ここに示す術前、術後の眼底写真は参考程度に見て下さい。

術前の眼底写真
術後の眼底写真

その後、この感動はだんだん薄れていきます。手術を受けるまで見にくかったことをすっかり忘れて、これが当たり前の世界になった。遠くを見ると少しぼけるけど、メガネをかけることはほとんどない。

私はこの選択でよかったと思いますが、結局単焦点がよかったか、多焦点がよかったかは確認ができません。両方を体験して比べることはできないのだから。どなたか、勇気のある人が右に単焦点、左に多焦点のレンズを入れて、感想を聞かせてくれれば、その人なりの違いはわかるのかもしれないけれど。

ともあれ、白内障と言われている人にとって、何かの参考になればと思います。