京都に行こうかな?

江戸っ子

「こちとら江戸っ子でえ。殴るんならおれを殴れ」 
 こんな余計な仲裁をする江戸っ子とは何者か。
 江戸で生まれて、江戸で育った町人のことを江戸っ子と言う。ただし、同じ江戸でも日本橋、神田、浅草、深川あたりに限る。神田明神の鐘の音が聞こえる範囲で生まれれば、神田っ子という特別な存在になった。
 フーテンの寅さんは帝釈天の産湯を使ったけれど、江戸っ子の誇りは江戸の水道で産湯を使ったこと。時代劇に見る井戸のような水場は、実は地中に張り巡らされた、江戸の水道網なのである。さらにちょっと高級な江戸っ子は、乳母日傘で育ったことが自慢のたね。

 江戸の町はインフラが整備をされて、目を見張る文化があった。粋な江戸っ子は浮世絵を楽しみ、川柳で遊んだ。
 忍ぶ世の
 蚊はたたかれて
 そっと死に

 何と色っぽい!金と暇があれば花見に行って、紅葉狩りをして、競って初物を口にした。その江戸っ子は威勢のいい言葉遣いで、見栄っ張りで浅薄だけど裏がない。   

「てやんでい べらぼうめ こちとらえどっこでい」
 老婆心ながら解説。「何を言ってるんだ。馬鹿野郎。おれは江戸っ子だぞ」
 この後に続くとすれば、「つべこべいわずにはっきりしろい。気が短けーんだ」
 江戸っ子の性格とは
「竹を割ったような性格」
 もちろん竹を縦に割った時のことで、横に割ると、こういうエッセイをだらだらと書くような性格になる。
「五月の鯉の吹き流し」
 口先ばかりではらわたがないという意味である。
「宵越しの金を持たない」
 蔵をたてて金を貯めたのは商人とコガネムシで、江戸の町人は常に貧乏であった。物を買っても置き場がなかったので、今使わないものは質草にして、使う時だけ出してくる。

 こうして江戸の町が発展をすると、町人の間にも次第に階級意識ができて、江戸の中心部に近いほど位が高いことになってきた。このような地域のブランド化はいつの時代にもあって、銀座と広小路を知らぬ者はいまい。この町の名がつく通りは日本中にあって、近場では目黒銀座に三軒茶屋銀座、川崎銀座。遠くは小樽花園銀座まで。
 かつて自由が丘にも銀座通り、広小路通りがあった。弁天通りに白山通りと、日本中の地名があったけど、自由が丘という名前が次第にブランドになって、古典的な通りは消滅。広小路通りもヒロストリートに変わってしまった。

御土居

 17世紀にできた江戸、20世紀の自由が丘ですらこれだから、千年以上の歴史をもつ京都はどうなっているか。京都は神田明神の鐘の音ほどあいまいでなく、上等な洛中と、そうでもない洛外をはっきり区別する境があった。
 そもそもの話は400年以上も遡る。豊臣秀吉が外敵の侵入や賀茂川の氾濫に備えて、京都をくるりと囲む土塁を作ったのである。御土居という。

 北は北山通り、南は京都駅付近に位置する長方形に似た形で、この御土居の中を洛中、外を洛外と言った。幅数メートルの土塁の向こうとこちらでは、人々の格づけも違ってきて、中華思想のような差別感が漂う。

 新京極の居酒屋には細長いカウンターが二つあって、客はこのカウンターの両側に座る。必然的に目の前のお客と顔を突き合わせて、そこには24歳の女性が二人座っていた。
 なぜ、24歳とわかるのか。それは話が全部聞こえてくるから。一人は母親から強く結婚を勧められている。今の人と今年中に結婚をすれば、100万円あげるとも言われている。
「100万円もろても、結婚式に200万から300万かかるやろ。あとはお客さんから、いくら香典が入るかやね」
 この場合、香典ではなくてお祝いだろうと思ったけど、黙って聞いていた。話の流れからすると、女性がためらっている理由は、付き合っている人が洛外の人のようだった。100万円のために結婚するのもどうかと思ったが、そんな女性でも洛中と洛外は大きな問題らしかった。
 その重大な洛中には誰がいたか。千年前の洛中はさぞ優雅だったのだろう。でも、蹴鞠をして遊んだのは一部の貴族で、その何十倍もいたのが奉公人。今、洛中にいる人は貴族の末裔か、奉公人の末裔かと思う。

青い目の京都人

 同じ居酒屋で外国人の女性客が一人、斜め前で実に巧みな日本語を操っていた。
 どんなに日本語の上手な人でも、外国人がビールのようなカタカナ英語を話すときには、えてしてネイティブな発音になる。「ビアー」ってな具合に。でも、この人はきちんとしたカタカナの発音で「ビール」と注文をしていた。
 もう、日本にも長くて陶芸か、染め物か、何か和風のものに興味を抱いているように見えたが、ただそう見えただけ。でも京都通であることに間違いはない。
 この外国女性の住まいが洛外としたら。褒められているようで、じつは嫌味を言われた時には気づかない程度の京都通であってほしいと願う。
そんなことを想いながら居酒屋を後にして、帰りに食べたきつねうどんが美味しかった。

京都に行こうかな?” に対して2件のコメントがあります。

  1. 横浜のおっちゃん より:

    眼からウロコの自由なサイト
    公開をお祝い致します。
    リラックスして読める先生のサイトを応援しています‼️

  2. 土坂 寿行 より:

    ありがとうございます。目の病気、旅、酒、感動・・・。様々な分野の話題を提供したいと思います。

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