最高の余暇

理想の暮らし

働きすぎと言われていた日本人のなかでも、最も忙しい日々を送るのは多分30代。40代かもしれない。
この人たちを中心に、日本人が思い通りにもてないのが余暇。その少ない余暇を、人々はどう過ごしているのだろう。

天気がよい日は外に出る。ジョギングならばスニーカーを履けばすぐできる。年をとったらウォーキング。

雨の日にはテレビとパソコン。最近はスマホの方が多いのかな。
押され気味の読書だけれど、いまだに人気があるのが実用書。
広い意味でのHow toもので、内容は料理からビジネス、自己啓発に至るまで。旅行の本も人気があるし、健康・医療やお金に関するものは定番になった。
間違っても志賀直哉や田山花袋の文庫本がランクの上位に入ることはない。そういえば、最後に「日本文学全集」を手に取ったのは、何年前のことだろう。

本の売れ筋から読み解くと、人々が求めているのは、そこそこの成功と生きがい、最後まで健康で豊かな生活である。しかし、本当にこれを望むのならば、多額の投資と親の援助、一生をかけた不断の努力が不可欠になる。

その場限りの楽しみは、単なる怠惰とみなされ、特に教育ママからは激しく叱責される。

無駄な娯楽を避けて、今日は明日のために。
明日は来年のために。
そして来年は老人ホームのために。

人生の手順

この世に生まれると、まず始まるのが24時間体制の育児。多くは母親がこの役を担う。予防注射や保育園は誰もが通る道として、問題はここから先。お稽古事をして、塾に行って受験。
また、塾に行って受験。  


そして、大学受験の壁を最後に、ストレスから解放されたと思ったら、考えが甘い。
重苦しい雰囲気の塾もなくなったし、毎日かどうかは別として、でかける先はキャンパスと呼ばれるところ。

しかし、この新しい生活もひらひらしている間に1年、2年はすぐ過ぎる。人のことは言えた義理ではないが。
そして現れるのが次の壁。この壁は倒しても、倒してもゾンビのように現れる。

最初の壁は就職試験。

この難関を突破した人は一応の成功者となり、結婚相手としても相応の評価がされる。しかし、ここでまたニコニコしてその気になってしまうと、人生は鳴門の渦潮に巻き込まれて、もはや抗うことは難しい。

それは結婚に続いて迎える出産。

誰でもどんな時でも、人生の出発点はここである。
この世に生まれると、まず24時間体制の育児を受ける多くは母親がこの役を担う。予防注射や保育園は誰もが通る道として、これから先がお稽古事をして、塾に行って受験。また、塾に行ってまた受験。
先ほどと同じ内容です。

ただ、30年前と違って、周囲の状況は厳しくなってきた。

  • 専業主婦が少なくなって、子育てが難しい。
  • 経済も低迷して、子育て費用の負担割合が大きくなった。
  • 平均寿命が5年ものびて、子育てどころか自分の将来すら怪しくなった。
  • 結婚をして子供を産むのが普通という感覚が薄れた。

今やサザエさんの家に見るような、家庭生活のゆとりはない。生活に余暇がない。
少子高齢化の一番の原因は、ここにあるのではないかとさえ思う。

余暇を求めて


ずいぶん前の話になるけれど、当時70代だった偉い先輩に聞いたことがある。人生、一番楽しいのは70代だと。当時、私は50代だった。

「なー君、70になるとな、カミさんの小言さえ我慢すればいいんだよ。あとはなにもしなくてもいい。したければ何をやってもいい。どうせ誰も見てやしないから。」そんなものかと思って聞いたけど、今は自分がその70代になって、あの時の言葉がしみてくる。それは、人生のあらゆるしがらみから、解放される年齢だったのである。

我々が生きているのは、たまたま生まれてきたから。それでも、家族や社会と縁あって今がある。これまで、世間に世話になったことは山ほどあって今、生かされている。反対に、世間の役にたったことも、山ほどあった。ここは、もちつもたれつ。でも、体力も気力もうせてくれば、世間とのご縁も薄くなる。

先輩はこうも言っていた。

「人の役にたてるというのはいいね。オレなんぞは、人の役にたとうなんて思ったら、その瞬間に迷惑かけているんだからね!」

70代になって、鳴門の渦潮のような人生も、ようやく落ち着いてきた。これからは大した明日もないのだから、大した準備もいらないし、不安もない。
天気のよい日に少し酒を飲んで、いい気分になって、ソファーの上で横になる。

それが最高の余暇。

もし、そんな楽しみに価値がないというなら、これまで積み上げた成果も蓄えも、何十年と払い続けた年金も、かげろうみたいになるだろう。
今までの成果は、今の暮らしを楽しくしてくれて初めて価値がある。

余暇こそが最高の美徳。
余暇は余暇そのものが目的だから。
人生の中心にあるのが余暇。

これはアリストテレスの引用です。