男と女あやつりつられ

女心は秋の空

女心は秋の空、なんてことを申します。男心も秋の空。まあ、どっちもどっちですが。
男と女は何かのきっかけで心を寄せあって、双方夢中になるけれど、その気持ちはたちまち失せて別れる者、しがみつく者、なんとなく続いてしまう者など。

夜釣りにでていくあなたの後を 
そっとついてくおぼろ月

遠くから眺めるだけなら、誰にも気づかれない片思い。何もなければ、本当に何もない。でも、実際に近づいてみるとどうなるか。

おき炬燵 並ぶ他人の手先をよけて
向かいどうしがさぐる指

出会いの始めのほのかな喜び。指先が触れただけで、それはもう特別な指先です。

明の鐘 ごんとなる頃 
三日月形のくしが落ちてる四畳半

あつい一夜も過ごして、気持ちはもう有頂天。このまま二人で朝寝がしたい。ところがこんな時期は長くは続きません。男が先か女が先かわかないけど、恋の心は秋の空。

弱虫が たった一言ちっちゃな声で 
捨てちゃいやよと言えた晩

熱愛がだんだん冷めてきた時だけど、本人は認めません。あんな男はだめだと周囲から注意をされますが、全く耳に入らない。理由はあとからお話します。

あの人の どこがいいかと尋ねる人に
どこが悪いと問い返す

ここまでは男ばかりが悪者のようですが、男も女も時が経てば変わる。

酒の相手に遊びの相手 
苦労し遂げて茶の相手

こうして人生も終盤、都都逸はスマホもテレビもない江戸の言葉遊びでしょうが、中味は今も何ら変わっていない。
このての話題、出会いの始めは、急の雨に傘を差しだしたとか、炬燵で指が触れ合ったとか、自然、ないしは自然を装ったほうが粋。
今は面と向かって頭を下げて、僕と付き合って下さい!私は若者が「付き合う」という意味をはっきり理解しておりませんが、高校野球の選手宣誓でもあるまいし。

その後はうまくいったとしても、例によって熱をあげて、冷めて、浮気をして、喧嘩をして、様々な将来が待っていることでしょう。

何千年も繰り返してきた男女の歴史で、私の知る限り、最も古い記述は源氏物語でした。光源氏が約30年にわたって、十数名の女性と関係をもった話。相手は正妻に愛人、側室。相手の女性は父の後妻とか兄の嫁とか、近場の女性で済ますのはあまりに安易ではないか。
光源治はなぜこれほどに、色恋沙汰を好んだのか。それは、色恋が強烈な快楽を伴うものだから。人間、多少の危険や、将来の不幸を予感しても、色恋にはまると猛然と突き進む。

秋の空はなぜ変わる

何故か。話はがらりと変わりますが、その原因を解き明かすには、人類の歴史を10-20億年さかのぼらなければなりません。生物がまだ単細胞であった時代です。

単細胞は自分のもつ染色体をコピーすれば、同じ単細胞ができて、とても平和だったはず。これを無性生殖と言う。
でも全く同じ細胞ばかりだと、環境の変化に対応ができない。ちょっと地表の温度が下がっただけで、全滅をしてしまうから。こんな状況が続く中、細胞同士の共食いとか、DNAのダメージとか、イレギュラーな変化が起きて単純な無性生殖とは、違った形態を生み出すことになりました。

つまり、細胞が合体と分裂を繰り返すようなシステムができあがった。合体をする二つの個体とは、メスとオス。これを有性生殖と言います。
有性生殖をすると両親の遺伝子を引き継ぐので、子の遺伝子が多少変わったものになって、環境の変化にも対応ができる。個体が順応すれば、生存の確率も上がった。

しかし、よいことばかりでもない。世代を継続するためには、メスとオスが出会って、さらに生殖をしなければならない。これはかなりのエネルギーを必要とする。
それでも生物は進化の過程で、様々な工夫をこらしてこの壁を乗り越えてきた。
杉の花粉、女王バチとオスバチ。哺乳類の場合、オオカミやアザラシは群れを作って、生殖の環境を整えてきた。

そして人間の場合、話は冒頭に戻ります。そこにあるのが脳内の性ホルモンです。

夜釣りにでていく男を目で追う女の脳内にはエストロゲン。とびきり美人のミニスカートがひらりとするとき、男の脳内にはテストステロンという性ホルモンがでる。
若者のほのかな喜びも、脳内物質で片付けてしまっては、なんとも味気のない話ですが。

何かのきっかけで知り合った二人が、四畳半で一夜を過ごすようになると、次に活躍するのがドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン、オキシトシンなど。もちろん個体差はありますが。
これらは性欲、ときめき、快感、興奮、愛情、などを高めるホルモンで、これだけホルモンの一斉攻撃を受けると、もう誰も抗うことができません。相手の欠点とか、将来の不安、自分の力量など論外です。突き進むは結婚。

賢い男がなんであんな女と、上品できれいな女性がなんであんな男と、と思うようなカップルを見かけます。結婚、離婚を繰り返すカップルも、こんな理由があるのではないか。

ところが初期の気狂いも、一段落をして落ち着いてくると、脳内ホルモンは一気に減る。私は今まで何を見ていたのだ、ということに気がついてきます。以前は美しい声で歌っていたホトトギスですが、姿かたちも違って見える。

 あの顔でトカゲ食うかよホトトギス

男も女も必ず間違える。わかっていても間違える。天才も秀才も間違える。世界の三大悪妻と言われる人がいて、それはソクラテス、モーツァルト、トルストイの妻たち。
それでも人間はこの歴史を繰り返してきた。だから、諸問題を抱えつつ、脳内ホルモンのおかげで、今も人間が続いているのです。

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